俺様外科医との甘い攻防戦

「どうした? 脱げない?」

 世界の違いに圧倒され、動いていない私に、久城先生は怪訝な顔を見せる。

「あ、いえ。素敵なお部屋ですね」

 取り繕うように言った褒め言葉だったが、久城先生は頬を緩めた。

「ああ、ありがとう。都波中央総合病院に勤務するにあたり、近いからと決めたんだ。中をよく確認しないまま越してきたから、ひとりでは持て余してる」

 こんなに高級なところを、よく確認せずに決める感覚が理解できない。

「病院が変われば、また引っ越す。ここならすぐに買い手がつくだろうし、周りの再開発も進んでいるから価値が上がるかもしれない。資産運用みたいなものだ」

「そう、ですか」

 価値観や住んでいる世界があまりにも違い過ぎて、上手く話が広げられない。
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