俺様外科医との甘い攻防戦

「本当、信用ないよな。俺。この本、初心者にも分かりやすい上に、割と専門的な部分にも切り込んでいるから」

 頭に置かれた『この本』を手に取ると、『脳梗塞〜さまざま症例と治療〜』という堅苦しい題名が目に入る。

「奥村さんがリハビリを担当した患者さんのカルテ。詳しく経過が書かれていて、関心していた。頑張り屋だよな」

 ポンポンと頭に大きな手を置き、それから「ま、無理しない程度に勉強しろよ」と言い残し、久城先生は踵を返す。

 私は前髪に手を入れて、熱くなりそうな顔を覆う。

 どうして……。

 今、リハビリを担当している患者さんの中に脳梗塞の治療をした人がいて、思うようにリハビリが進んでいない。もっと脳梗塞についての知識をつけた方がいいかもしれないと考えていたところだった。

 そういえば、その人の主治医は久城先生だ。
 患者のカルテは医師や看護師とデータ共用しているから、リハビリが進んでいない状態なのは、主治医として知っているのは当然だ。

 だからといって……。

 どうせ気まぐれだ。わかっている。だから心をかき乱すような行動は控えてほしい。
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