俺様外科医との甘い攻防戦

「それならまた、陽葵の休みの日に合わせて、俺も休みを取らなきゃな」

「え?」

 驚いて顔を動かしたのが、いけなかった。
 屈んでいて、すぐ近くにあった久城先生の顔は触れそうな距離にあって。

 見つめ合い、引きつけられるようにどちらからともなく近付いて……。

 ブーッブーッ。

 テーブルの上のスマホが、大きな振動で主張する。

 おでこがコツンと当たり、「また時間切れか」と名残惜しそうに離れていく。

 スマホを手にし、電話を終えた久城先生は「タクシーを手配させてほしい。これも甘えてくれるね?」と告げ、再びスマホを操作する。

 そのままタクシーに乗せられると、「くれぐれも安静に」と念押しをされ、別れた。

 唇は触れなかった。

 触れられる距離だった。軽く触れるくらいすぐの距離だった。それなのに、触れなかった。
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