俺様外科医との甘い攻防戦

 次の日出勤すると、早々に歩美に捕まってランチの予定を取り付けられる。
 行き先は『カフェ・オラージュ』。角の席を陣取り、事情聴取する気満々な歩美を前に座る。

「久城先生も昨日、午前中お休みだったね。そういうこと?」

 小声で聞かれ、歩美がただならぬ関係だと誤解していそうで慌てて反論する。

「待って! 待って! なにもないよ」

 捻挫も本当に軽いものだった。今は痛みもない。念のため湿布とテーピングはしているが、普通通りに歩いている。

「だって、食事は一緒にしたんでしょ? 連絡先くらい交換した?」

「してない」

 連絡先は知らない。
 聞く機会は存分にあった。それでも聞かれなかった。

 だから余計に、おとといと昨日の出来事は夢なんじゃないかと思ってしまう。
 ただ、捻挫のテーピングと、私の服ではない着替えだけが唯一、久城先生と過ごした時間を証明していた。
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