俺様外科医との甘い攻防戦

「久城先生が声を荒げて「いい加減にしてくれないか」って注意したこともあったみたいで。辞めるとなったから、とうとうやらかしたねって、もっぱらの噂みたい」

 歩美の話を聞いていると、自分が一緒にいた久城先生は別人かと思える。言い寄っている女性と対峙したときは、確かにおそろしかった。
 それなのに……。

 どうしてキス、したんだろう。

 成り行きで部屋に行った。それでも大人の関係にはならなかった。
 医師と親しくなれば、ただれた関係になって、捨てられるくらいのイメージがある。

 久城先生とはそうならなかった。
 だから、やっぱりからかわれているだけ。
 その結論に落ち着く。

 キスも特別な意味はなく、からかいの一部に決まっている。
 そう思うのに、触れるだけのキスを思い出し、胸を焦がす。

 いっそ酷く乱暴な行為をしてくれれば、軽蔑できたのに。
 そうなったら泣くのは自分だ。わかってはいるのに、今のふわふわした気持ちの対処に困っていた。
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