俺様外科医との甘い攻防戦
お試しは強引に
手術見学の申し込みの期日が迫っている。
私は案内のメールを何度も読み返し、ため息をつく。
パソコンを閉じ今日は帰ろうかというところで、歩美が鼻歌混じりにデスクまで来て、私を誘う。
「陽葵。今日の飲み会は、陽葵も行くんだからね!」
決定事項として言われ、苦笑いを漏らす。
「私はいいよ〜。お医者様との飲み会は苦手で」
今は前以上に医師との飲み会の場で、笑顔でいられる自信がない。
あれ以来、久城先生とはほぼ話す機会はない。
ただ、からかわれただけ。
その予想通りだった関係性に、どうしてか拍子抜けしている。
あれほど執拗に『付き合おう』と言われていたものもなくなった。
興味が失せたのだろうか。それならそれで良かったはずなのに。
「大丈夫! 今日はIT系のエリートサラリーマンだから! 医師だけじゃなく、視野を広く持とうと思って」
歩美の行動力のすごさには、毎度感心させられる。
「IT系って、全然仕事わからないから話が……」
「平気平気。『そうなんですね〜。すごいですね〜』って相槌するだけで、成立するから」
「そんなわけないでしょう⁉︎」
「いいからいいから」
私も今日はお酒でも飲んで、パーッと騒ぎたい気分ではある。
強引に手を引かれ、渋々歩美についていくことにした。