俺様外科医との甘い攻防戦
もちろん荷物を全て持って。
歩美には悪いけれど、スマホに連絡を入れる。
『ごめん。帰るね。私の分は明日支払います』
慣れない行動はするものじゃないなぁと自己嫌悪に陥りながら、出口に向かう。
「奥村さん。帰るの?」
声をかけられ振り向くと、先ほどのテーブルで私の向かいに座っていた男性が立っていた。
「えっと、はい。その、仕事、残しているので」
本当は残っていない。
「俺、こういう飲み会って苦手でさ。人数合わせでって言われたから来たけど……。奥村さんも苦手なんじゃない?」
「え、えぇ。まあ」
「奥村さんと一緒に抜けていいかな?」
私に了承を取られても困る。
「それは、どうなんでしょう。私はこれで。失礼します」
軽くおじきをして行こうとすると、「待って。俺、奥村さんと帰る。送らせて」と連れ立って店を出る形となった。
「あの」
当たり前のように並んで歩く男性に戸惑いながら、「私、電車ですので」と駅の方を指差し歩き出す。