俺様外科医との甘い攻防戦

「俺、駅への近道知っているから、教えてあげるよ」

 手が軽く触れ、握られる前に咄嗟に手を引っ込めて自身の胸に抱く。

「ご、ごめんなさい。急ぐので」

 もう一度頭を下げ、行こうとすると今度は腕をつかまれた。
 全身の毛が逆立った気がした。

「こっちの方が近道だから」

 強引に連れて行かれそうになり、足がもつれそうになっていると、今度は別の角度から肩を抱かれた。

「悪いけど、俺の彼女なんだ。気安く触らないでくれないか」

 低い声が、今はより一層低い。
 この声は、久城先生……。

 腕を掴んでいた男性は一瞬怯んだものの、すぐに反論する。

「合コンに来ていたのだから、あなたには見切りをつけたのではないですか?」

 そもそも彼女ではない。
 それはなのに、久城先生は余裕な態度で立ち回る。

 男性からの質問には無視を決め込み、私へ顔を寄せて言う。

「まだ拗ねているのか。俺はお前しか見てないって言っただろ」

 甘い台詞は、反論してきた男性を牽制するものだ。
 わかっているのに、包み込むように回された腕の中で顔が熱くなる。

「んだよ。迷惑なんだよ。痴話喧嘩で合コンに来るなよ」

 男性は冷たく言い放ち、来た道を戻っていった。
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