俺様外科医との甘い攻防戦

 私たちは、腰に手を回したままの恋人風を装って男性とは反対の方へと進む。

「あの、もう行ったんじゃないですか?」

「ん? ああ。邪魔は、してないよな?」

 あんなに強引な救出劇だったのに、今さらの確認をされて吹き出しそうになる。

「ええ。はい。助かりました。名前すら、覚えていなかったので」

 私の代わりに吹き出した久城先生が「さっきの人に、ちょっと同情するわ」と笑う。

 さきほどの男性は、少し手が触れただけでも嫌だった。腕を掴まれてゾワッとした。

 それなのに、久城先生は……。
 無断で強引に触れてきているのは同じなのに、どうしてこんなにも違うのだろう。

 久城先生の声を聞いて安心した。
 抱き寄せられたぬくもりに肩の力が抜け、身を委ねている。

「陽葵の同僚の子、ちょっとやること乱暴だ」

 ため息混じりに言われ、驚く。
< 78 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop