俺様外科医との甘い攻防戦

 22歳で大学卒業と共に作業療法士の資格を取り、2年間介護施設で働いた。それから都波中央総合病院の職につく念願が叶い、今に至る。

 大変ではあるが、やり甲斐がある仕事だと感じている。

 ただ……。

 私も、歩美と同じ。歩美のように公言していないだけ。

 作業療法士を志したのは、憧れの医師がいたから。その人に近づきたかったから。そんな不純な動機だ。

 本当は看護師になりたかった。けれど血がどうしてもダメで模索した結果が作業療法士なだけ。

 困っている人を助けたいだとか、体が思うように動かない患者さんに寄り添いたいだとか、そういう高尚な理由で目指したわけじゃない。

 手にした専門書に目を落とす。

 どうして、わかっちゃうかな。

 心を見透かされている気がして、ぶるりと体を震わせる。

「ヤダな。貸しひとつじゃない」

 小さく憎まれ口を叩き、病院を後にした。
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