俺様外科医との甘い攻防戦

「たまたまメールチェックして、気づいたから良かったものを」

「久城先生。私、駅向こうです」

「世間知らずの陽葵は、知っておいた方がいい」

 腰に手を回されたまま、連れられる。
 それは先ほどの男性が『駅への近道』と言って行こうとしていた方向だ。

 進めば進むほど、そこは怪しいホテル街。

 いかがわしい雰囲気が漂う街並みに、不安げな声が出る。

「あの、久城先生……」

 いつの間にかタクシーを止めていた久城先生に促されるまま、タクシーに乗り込んだ。

「ベリーヒルズビレッジのレジデンスまで」

 前と同じ台詞を聞きながら、揺れる瞳で久城先生の横顔を見つめる。
 久城先生は難しい顔をしたまま、こちらを見ようとはしなかった。
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