俺様外科医との甘い攻防戦

 玄関の扉が開かれ、目で入るように合図される。

 おずおずと中に進むと、「本当、陽葵は心配になる」と、後ろから腕を回される。
 覆い被さるように抱き締められ、胸が苦しい。

「俺だから、こんなに簡単についてくるんだよな?」

 連れてきた張本人に念押しされ、不貞腐れたくなる。

「無言の圧力をかけてきたくせに」

 小さく抗議すると、久城先生はため息混じりに告げる。

「手、震えてる」

 そう言いながら、私の手を優しく包む。
 久城先生の手に触れられて、初めて震えていることに気がついた。

「これは、その」

「さすがに自覚した? 危ないところだったって」

 認めざるを得なくて、「はい」と小さく返事をする。

 あの異質な街並み。本通りを数本奥へ行っただけなのに。
 あそこへ連れて行かれていたら、自分ひとりで対処できていただろうか。

 足を踏み入れたら最後、抵抗虚しく、乱暴に連れ込まれる。
 そんな想像がありありと浮かび、自分の考えの甘さを思い知った。
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