俺様外科医との甘い攻防戦

「じゃ陽葵はおとなしく寝ておくこと。寝室、使って」

 改めてカードキーを渡され、その重責に慄く。
 そして、久城先生の発した言葉に違和感を感じた。

「え。久城先生は?」

「蓮弥。名前で呼ばないのなら、その度にキスするからな」

「そんな、理不尽です」

 文句を言ったのに、久城先生は悪戯っぽい笑みを浮かべ髪をかきあげる。

「俺、このあと当直だから」

「嘘」

「本当」

 当直があったのに、居酒屋に来たというの?

 久城先生は再び腰を屈め、今一度顔を近づけてくる。思わず体を固くして、ギュッと目をつぶる。

 するとおでこにコツンと軽い衝撃があり、擦り寄せられた。

「身構え過ぎ。部屋は好きに使ってくれ」

 体を離し、玄関を出て行こうとしてから振り返る。

「一応言っておくが、それはスペアキーだ。俺も毎日、鍵なしはきつい」

「それは、さすがに心得ています」

「そう? 前に渡したときは違ったんだけどね」

 それだけ言うと、今度こそ玄関を出て行った。
 玄関の扉が閉まった音を聞いた途端、崩れるようにその場に座り込む。

「どうしよう。これって、同棲?」

 自分で呟いた単語の破壊力に身悶え、顔を熱くさせた。
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