俺様外科医との甘い攻防戦

 両手で頭に手を添え、そっとおでこに唇を寄せる。

「今日は当直で帰れない。寂しくないか?」

 子ども扱いをするようなセリフは優しい声色で、心配されているのが痛いほどわかる。

「当直明け、そのまま勤務ですか?」

「ああ。数時間の仮眠はもらえるが……。そうだな。その時間、帰ってこよう」

 頭を振り、「無理されるのは嫌です」と精一杯の意地を張る。

「仮眠室で陽葵と眠れたらいいのにな。そういうわけにはいかないだろ。仮眠室の二時間より、陽葵との一時間の方がよく眠れそうだ」

 背中に置かれた大きな手。

 その手は、今の状況とシンクロして、子どもの頃の記憶を呼び覚ます。あのときの手も、背中を撫でてくれて優しかった。

 本当にあの日、助けてくれた人は久城先生なんじゃ……。

「久城先生?」

「ん?」

「いえ。なにも」

 久城先生は両手で頬を包み込み、触れるだけの優しいキスを落とす。

「いい加減、蓮弥って呼んでくれよ。キスする言い訳になるのは、案外いいって変な期待する」

 もう一度、今度はおでこにキスを落とし、体を離す。

「くっついて眠ろうな」

 そう言い残し、部屋を出て行った。
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