お見合いから始まる極上御曹司の華麗なる結婚宣言
果たして薫さんのことを意識せずに同じ空間でいられるだろうか。紗希の言葉が頭の中でぐるぐると駆け巡る。それでも、やはり食べてみたい。その欲求には勝てなかった。

「手洗いうがいを済ませたら、皿を用意してきます。飲み物はブラックコーヒーでよかったですか?」

「ああ。頼む」

それからしばらくしてダイニングテーブルに向かい合って座り、ミルフィーユを食べ始めた。チラチラと薫さんの様子を窺いながら、ミルフィーユを口に運ぶ。

パリパリのパイと甘さ控えめなクリームの中にたっぷりの苺と甘めなバナナが敷き詰められていて、その魅惑のハーモニーに思わず笑みが溢れた。

「美月は分かりやすいな」

「え?」

「ずいぶんと幸せそうな顔をして食べている。甘い物が好きなのか?」

「あ、はい。私、ケーキの中で一番ミルフィーユが好きなんです。だからここのお店のミルフィーユを食べられて嬉しくて……」

美味しくてついつい饒舌になる私は実に単純だ。さっきまで紗希に言われたことをあんなにも気にしていたのに、今やミルフィーユのことで頭がいっぱいなのだから。

「そうか。俺もケーキの中でミルフィーユが一番好きなんだ。というか、甘い物は全般苦手だが何故かミルフィーユだけはうまいと感じる」

「そうなんですか?」
< 33 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop