お見合いから始まる極上御曹司の華麗なる結婚宣言
頭に浮かんだ疑問を口にしたいのに頭がぼんやりとして働かない。それどころか思考もだんだん停止して意識が遠のいていく。

「そろそろここを出ようか」

名波先生がそう言って私の身体を抱き抱えて歩き出した。アルコールが入った私の身体はいうことを効かない。真っ直ぐに歩くこともできなくて、店を出てすぐに名波先生が私をお姫さま抱っこしてエレベーターへと乗り込んだ。

そして連れて行かれたのは下の階にあるホテルの一室だった。意識が朦朧とする中、私を寝室にある大きなベッドの上へと下ろした。

そして、スッと私の頰を撫でてそのままブラウスのボタンに手を掛けようとする。

「や、めて……」

必死に言葉を絞り出して抵抗するも、身体はいうことを効かないし、名波先生も手を止めてはくれない。絶対絶命の中、意識がどんどん遠のいていく。

私を救うヒーローは現れはしないのに、薫さんの顔が頭に浮かんだ。

「美月ちゃんは人を信用しすぎる。俺は美月ちゃんが思うような優男でも紳士でもない。だから君をたっぷり利用させてもらうよ」

そんな名波先生の言葉に頰を涙が伝う。と同時に意識を完全に失う寸前に私が最後に見たのはーー

発した言葉とは裏腹な今にも泣きそうなくらいに悲しい表情を浮かべる名波先生の姿だった気がする。

「ごめんね、美月ちゃん……」

私が深い闇に落ちて数秒。私の頰を伝った涙を拭いながら、震える声でそうつぶやいた名波先生の言葉は私には届かない。
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