復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
会社を買収されてから環境が一変して数年後。
私の性格も、考え方も、全てが冷めたものに変わって、ちょうど就活をしている頃。
「純連」
「っ……新…」
顔を見たくない人間トップに入る親会社の御曹司・新と偶然、街で再会した。
「偶然だな。お茶でもするか?」
「………」
警戒心を増築させて、無意識に私は薄ら笑いを浮かべた。
きっと鼻で笑うんだ。
弱い会社が強い会社に呑み込まれる。
それが世の中の摂理だって、新は言うだろう。偏見とかじゃなく、そういうやつだ。
「……そんなに身構えるなよ。婚約者になったんだから」
「…………どういうつもり…? なんでウチの会社を買収したの…? どうしてお父さんは海外に行くことになったの…? もっと大手企業の社長令嬢と婚約した方が藤堂にとっていいはずなのに」
「………質問ばっかりだな」
「………その横暴さ、新と藤堂ソフト株式会社…お似合いだね」
言葉のナイフを振り回して、新を傷つける目的で言い放つ。
でも新は私に対して全く相手にしてないような内容を切り出すだけだった。
「……藤堂で働けよ。そしたら父親にも会えるし、好待遇にお前のお母さんも大喜びするはずだ。」
「絶対に嫌! 私は自分で就活して働く。誰にも縛られずに生きれるなら何処で働いたって構わない!」
爪牙をむき出しにして殺気立てて話すことしかできなかった私に、最後、彼は衝撃的な言葉を口にする。
「買収計画を立てたのは…俺だ…。」
一瞬、息が詰まる。こんなにも溢れる憎悪を経験したのは、これが生まれて初めてのことだった。
「だけど…」
「……『だけど』…? もう何も聞きたくないよ…」
はらわたが煮え繰り返る。怒りが頂点に達したとき、抑えきれない涙が流れ出した。
それを見て、新は何も言わずにゆっくりと去っていく。その時の私の表情は見っともないものだったと思う。
何度も、何度も頭の中で反芻した。
『買収計画を立てたのは…俺だ…。』
いつまで経っても脳裏に焼き付いて消えない言葉、声、表情、そして負った傷の痛み。
(……許せない…)
私の家庭環境をおかしくしたあいつを…。
絶対に私は許さない。