復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
お風呂を済ませ、私は新の部屋の前で立つ。
表向きは『マッサージをする』というものだが、
『ドキドキ☆スキンシップをして距離を縮めよう大作戦』
という自分ながらネーミングセンスのないダサい名前の作戦を決行するのが本来の目的である。
(よしっ!頑張ろう!)
闘争心を抱き、深く呼吸を数回してからノックをした。
「新…」
「ん?」
「マッサージしに来たよ」
ガチャっとドアを開けて覗き込む。中に入れば寝巻き姿の新と目が合った。
さぁ、どうだ。
新しく奮発して購入した触り心地の良いパジャマ。ショートパンツで太腿を見せ、同時に胸元はガッツリ開いている。
別に自分の身体を安売りするわけではない。
あくまで、ドキドキ大作戦のうちの一つ。
足を運び近づいて、ベッドに腰掛ける新の隣に座る。わざとらしく、あざとくくっついた。
「お疲れ様。触るよ?」
「……ああ。」
新の表情は変わらず。本当に私に興味がないことを再確認すると、新に聞こえない程度の軽いため息がこぼれた。
「硬いね。」
まるで岩が入ってるみたいに硬くなっている肩。日中の多忙さは知っているし、パソコンの液晶との睨めっこが多いことも謎にママから聞いている。
「………新ってあまり疲れてるそぶり見せないよね。弱みを見せない感じ。」
ポロっと口から溢(こぼ)れるように出た言葉だった。
「……」
「……そんなに気を張ってばかりいたら身体だけじゃなくて心が疲れちゃうよ。」
なぜ私は敵に思いやりのある発言をしてるんだろう。これは全部無意識に発していたものだ。
「………」
なんて。
新に言える立場じゃない。私も気を張ることは多いし、弱みなんて心を許している人にしか見せない。
(……難しいよね。人前で本当の自分を見せることって…)
親指の腹を使って日頃の恨みを込めるように強く押す。段々と柔らかくなる凝りに、肩揉みの達成感を感じていると…。
「交替だ。前に来い。」
振り返って変わらずの冷たい口調で新は私に言う。尽くすことしか考えていなかった私は驚いた表情で新の瞳を見た。
ーー整った顔立ちだなぁ。
会社では愛想が良い新。きっと仕事のできるOLさんにモテるんだろうな。
「………私、そんなに肩凝ってないよ?」
「いいから。前来い。」
強引、傲慢、偉そう。
なんて悪態を心の中で吐くけれど、抵抗せずに私は新の前へと移動して彼の足の間に身を置く。
『お好きにどうぞ』と言わんばかりに脱力すると、彼は予想外の行動をとった。