復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
言うまでもない。
そんな簡単に逃げ出してたまるもんか。
新は私の手を再び引いて、会場奥にあるステージへと歩いていく。注目を浴びながら彼はマイクを司会者から受け取り、全く予想だにしなかった言葉を発する。
「私事ですいません。以前からお付き合いさせていただいておりました。柊 純連さんと私、藤堂 新は入籍致しますことをこの場を持ってご報告させていただきます。」
「………へ?」
拡声された新の発言に対して会場中がどよめく。驚いた表情を浮かべつつも繰り出した祝福の拍手音で溢れかえる。
周りの反応以前に私が一番の衝撃を受けていた。
「新…!なんで突然…」
「逃げないんだろ?」
「っ……」
「俺のこと、好きなんだもんな?」
いつものクールな表情で新は耳元で囁く。確かに好きだと伝えたし、逃げないと意思表示した。
でも、まさかこんなことになろうとは…。
「パーティーの本当の目的は俺の婚約者発表。表向きは異業種交流も含めた藤堂ソフト株式会社主催の『仲良くなりましょうパーティー』。」
「聞いてない…」
「言ってないしな。」
この男はいつもいつも私を驚かせる。
「逃げるチャンスは与えただろ。俺のこと好きって言ったの、嘘だったのか?」
「すっ……好き、だけど…」
「周りの目を見て、怖気付いた?」
新のその言葉が耳に届くと同時に私は周囲を見渡すと、鋭い視線が向けられていた。
それはまるで刃のよう。
嫉妬や憎悪が込められた視線だということは目が合った瞬間に察知した。
「新にとって私は都合が良さそう。」
「虫除け効果は絶大。」
「………私のこと好きじゃないくせに。」
「さぁ、どうだろうな」
射抜かれるみたいに向けられた視線は痛い。
ナイフを投げつけるみたいに飛んできた言葉は非情なものだった。
「あの子ってラウンジレディの…?」
「新さん、良い男なのに女性を見る目はないんですね。」
「卑しい。」
グサグサ刺さって、身体中血まみれになるような感覚。
そんなの今更か。
「柊 純連です。以後、お見知り置きを。」
卑しい?
………上等だ。
なんて言われたって私は、私の信念を曲げてたまるか。