復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
H.I.T株式会社を買収するための計画を立てたのは俺だった。
「新、計画どおり進捗してるか?」
「………それなりに。」
「H.I.T株式会社を買収して更に飛躍した組織を目指す。そうすれば、我が藤堂も向かうところ敵なしだ。」
親父は、多少誰かの犠牲を払ってでも利益を追求する人だった。
「買収する、という言い方は聞こえが良くないな。正しくは連携することを目的としている。藤堂にとっての同業種であるH.I.Tは…いずれ目障りに感じるだろう。」
「だから今のうちに買収して、藤堂の元に置く。藤堂が上に行くための駒にする…。親父にとってのリスクマネジメントを…なぜ俺に…?」
「今後、私の後を継ぐんだ。今のうちにビジネスの険しさを身をもって体験して欲しい」
いつだってそう。
敷かれたレールの上を走る機関車みたいな扱い。
止まることは許されない。
少しでも血迷えば愛想を尽かされてお払い箱だ。
「………買収することで………藤堂にも、H.I.T株式会社にとっても…プラスなのか?」
「あぁ、そうだ。H.I.T株式会社の御令嬢、お前の大切な友達である純連ちゃんも…他のみんなも…」
「全員…笑顔になるよ」
父親の言葉を信じて、バカみたいに一生懸命に計画を遂行させた。H.I.T株式会社の経営を傾かせれば、簡単に買収できる。それくらい容易で楽な計画。
家族に捨てられたくない。
だから計画を進めた。
自分が頑張れば、もっと両社は発展してみんなが笑顔になる。
そのために計画を進めた。
高校生ながらに、コツコツと、じわじわと。
だから大きく裏切られた時、心の奥底が張り裂けそうな悲痛に襲われた。
「……私の家は…藤堂のせいでめちゃくちゃ…。お父さんは帰ってこない…。お母さんも精神的におかしくなって………毎日泣き叫んで……」
『捨てられたくない』なんて自己中心的な考えで行動した。『みんなのために』なんて偽善を並べて正当化した。
そんなだから…
大好きな幼馴染の涙と言葉が、窒息しそうになるほどに強く、俺の首を絞め上げた。
純連の父親は家族を捨てて海外へ。純連の母親はその結果、精神を病ませた。
大好きな純連の笑顔は…。
曇天の空模様みたいに重たくて、その雲の隙間から晴れ間なんて一切見えやしない。
何処で間違った?
何処でしくじった?