復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
親父は少しでも感じる後ろめたさと引き換えに、純連と俺を婚約させる、と勝手に決めた。総資産2500兆の大企業である御曹司の俺が婚約者。うちの子会社になったH.I.T株式会社にとってはなんて都合のいいことなんだ、と父親は言う。
純連は俺のことが嫌いだ。
昔からそう。
優しくしようとしても、先に嗜虐心(しぎゃくしん)からの行動が表に出てしまう。幼い頃は特にそうだった。
「………好きでいる資格なんてないよな。」
誰に聞かれるわけでもない独り言を、独りでいる部屋でこぼす日は数知れず。
そんなある日。22になる年。
「偶然だな。お茶でもするか?」
「………」
純連と街で偶然再会した。
警戒心満載な表情で俺を見つめた後、薄ら笑いを浮かべていた。
「……そんなに身構えるなよ。婚約者になったんだから」
「…………どういうつもり…? なんでウチの会社を買収したの…? どうしてお父さんは海外に行くことになったの…? もっと大手企業の社長令嬢と婚約した方が藤堂にとっていいはずなのに」
「………質問ばっかりだな」
「………その横暴さ、新と藤堂ソフト株式会社…お似合いだね」
皮肉をぶつけられて、居た堪れなくなる。
悪いのは俺だ。俺のせいだ。
お前が心の底から笑えなくなったのも、家族をバラバラにさせたのも、全部、全部俺のせい。
だからこそ、償いの意味で…。いや、違う。ただ、この申し訳なさから逃れたかっただけなのかも知れない。
「……藤堂で働けよ。そしたら父親にも会えるし、好待遇にお前のお母さんも大喜びするはずだ。」
そうすれば元通りとまでは言えなくても、昔みたいに家族一緒に笑顔で暮らせるんじゃないか?
なんていう淡い期待とエゴ。
俺自身が藤堂に入れば、純連の父親を日本に戻すことができるかもしれない。俺の親父が勝手に決めた勤務先も、所属も、全部俺が……。
純連が幸せになれるように……。
「絶対に嫌! 私は自分で就活して働く。誰にも縛られずに生きれるなら何処で働いたって構わない!」
爪牙をむき出しにして、殺気立てて話す純連。苦しくて、悔しくて、八つ裂きにされた胸の内を知って欲しくて…。
「買収計画を立てたのは…俺だ…。」
こんなこと伝えたって意味ないのにな。
後悔から逃れたくて、自分の無力さから逃れたくて、止められなかった。
「だけど…」
「……『だけど』…? もう何も聞きたくないよ…」
そのまま純連とは別れて、婚約者なのに長い間会わなかった。会わせる顔が無かったと言えばそれが一番正しい。