復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
約束
「……好きだよ」
ちゅ…というリップ音に心が騒ぎだす。
両想いだとお互いに認識してから、恐ろしいほどに甘い日々が続いていた。
「……緊張する…むり…」
「………今更…?」
無理なものは無理だ。ろくに恋愛なんてしてこなかったし、ましてや相手は新だし。
「本当、純連って可愛いよな。」
頬を撫で、それからゆっくりと耳を指先が這う。優しく侵食するように触れながら、新は私から目を離さない。
柔和な笑みを浮かべ、彼は言う。
「世界一幸せにしてやる。」
うん。……ん?
今時、こんなセリフを吐く王子様みたいな人は存在しませんよ?
なんて心の中で悪態をつくけれど、正直、喜んでいる自分がいることも事実。
「………新、前に私に『キャラがブレすぎ』って言ってたけど…新も大概だよ?」
「……純連と一緒にするな」
突っ込みたいところが満載だ。
まず、目の前にいる人は本当に『藤堂 新』なのだろうか。
おかしいくらいに甘々。新の大好物、名店『鏡秋』のモナカよりも甘い。
あぁ…でも…。
たまにこんな表情で私のことを見つめていたっけ。
「……新と話したいこと、いっぱいある。」
数ヶ月前まで、新に抱いていた感情は『憎しみ』だけだった。
無知なままなんて嫌だ。
「俺も、純連に話したいことが沢山あるよ。謝りたいことも、伝えたい気持ちも。」
きっと内容は同じようなものなんだと思う。数年前の、あの時の話だろう。
「うん。」
「どんな話でも、ひとつだけ純連には覚えていてほしい。」
「俺はいつだってお前を想っていたよ」
胸が擽ったくなる柔らかな声音と甘い言葉。
この日は、驚くほどに静かな夜だった。