復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
いつまでも、あなたと。
金木犀の香りがするベリーヒルズビレッジ。肌を刺すような寒さは例年よりも厳しくも、空を仰げば吸い込まれそうな青が広がっていた。
新の隣を私はいつもよりも少しだけ大きな歩幅で歩いていく。
「どこ行こうか?」
ノープランにも程がある。必需品と言われる類の物を見栄として購入したブランド物のバッグに入れて、背筋を伸ばしている私に新は問うた。
「何処でもいいよ。新の行きたい場所で。」
この返し方は期待された返し方ではないだろう。
でも、本当に何処でも良くて。
ただ、新の隣を歩くだけで時の流れが止まればいいなんて思えるから、私は変な人間だ。
今日の新はより一層、格好良く見える。
落ち着いた秋コーデ。オフホワイトのタートルネックに丈が長い黒のアウター。素材は高級品と言われて頷けるような保温性に優れた物だ。
(新ってモデルでも食べていけそう。)
いや、御曹司な金持ちの人に、『食べていけそう』なんて言葉は不適切な表現かもしれない。
特に関係のないことばかり考えている私に、新は手を差し出す。
「なに?」
「何って…手。」
「?」
手がどうかしたのだろうか。
「寒いの?」
「うん」
それだけの会話で私は察知した。ポケットの中に忍ばせていた温かなカイロを取り出し、新の手のひらに置く。
ふふん ♪ どうだ!割とできる女でしょう?
という表情を新に見せると、彼は目を細めて私のことを睨んできた。
「お前って本当、お節介だよな」
「っ! 人の厚意を…!」
「…好きなやつと手を繋いで歩きたいって思うだろ? 普通…」
「………ぁ…」
頬を紅潮させて照れながら言うから。
『変なの』なんて感想を抱いたりして。
再び差し出された手を握って、無言のまま私は新の顔を覗き込んだ。