本当にそれでいいですか?

「ごめんなさい。私が全部悪いんですっ」


ハンカチに涙を押し付け、しおらしく泣き声をすする目の前の女の姿はいかにも用意されたセリフだと思った。


「私が隆也さんを好きになったから…」
「私がどうしても諦められなかったんですっ」
「仕事でもプライベートでもいつも優しくしてくれて…」


まるで芸がないな、と。
何処かの安っぽいドラマを見ているようで、「どこかの劇団員ですか?」と不謹慎に馬鹿にした笑いが漏れそうになったけど、冷静に堪える。

そして見るからに隆也が好きそうな女性だなとぼんやりしながら見定める。


「ごめんなさい。突然押し掛けてっ。でも私、どうしてもじっとしていられなくてっ…」


儚げにしくしくと泣く。

緩いウェーブかかった背中までの髪は月1ぐらいでカラーなどを手入れしているのだろう。
色鮮やかにアートされたネイルも綺麗でオシャレ。今時の流行りは分からないが、彼女のセンスが伺える。
家事とパートでひび割れた爪の私との差は計り知れない。

そしてことごとく予想通りのタイプだな、と。


「どうしたら…、き、気付いた時にはもう子供は下ろせない週になっていて」

うっ、と俯く。
不倫相手の肩をもち、仕舞いにはか細い体を引き寄せ「すまない」と呟く隆也。
「ちゃんとするからな」と労るように優しく肩を滑らせる姿はまるでこっちが悪者のよう。
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