第一王子に、転生令嬢のハーブティーを II


 その火事で、クラム公爵一家は誰一人として助からなかった。

 強面の公爵も、歳若い妻も、幼い長男も、産まれたばかりの長女も。

 働いていた使用人も多くが火事に巻き込まれ、命からがら逃げ出してきた者はその惨状を広く伝えた。そのお陰でクラム公爵家放火殺人事件の話は、よそ者のレミリアも国に来てすぐ知ることになったほどに広まったそうだ。



「でね、クラム公爵家はものすごい資産家だったから、屋敷も燃えてしまった場所以外にもいくつか所有していたの」


「あ、まさか……」



 何となく言わんとすることを察したアリシアに、レミリアは苦笑して頷く。



「そう、この屋敷もその一つ。本来ならクラム家の親戚が譲り受けるはずだったのだけど……お義母様が色々と伝手(つて)を使って安くで買い取ったんですって」


「へ、へえ……。そんな経緯が」



 なるほど、確かに少し訳ありのようだ。



「当時は公爵家が所有していた屋敷はどこも一家の幽霊が出るとか気味悪がられていたらしいのだけど、お義母様はそんなこと一切気にしていなかったみたいね」


「ゆ、幽霊……」


「あ、安心して!あたしはこの家で幽霊を見たことどころか変な現象も一回も体験してないから」


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