第一王子に、転生令嬢のハーブティーを II
他人の日記を読むというのは背徳感があるが、日付は十五年ほど前であるし、時効ということで許してもらおう。
(あ、クラム家本邸が火事に遭ったことも書いてある)
読み進めていくと前に姉から聞いたばかりの話を日記の中に見つけてハッとする。そこには主を亡くした使用人の悲痛な叫びが切々とつづられており、それ以降の数ページで日記自体が終わっている。
だが、その数ページを読んでアリシアは違和感を覚えた。
(あれ、姉様は確か……)
姉の話を一言一句聞き漏らしていなかったかと問われればそんなことはないが、アリシアの記憶が正しければ、この内容は姉の話と相違している。
その他にも、何がとは言えないが、頭の奥に引っかかるところがある。まるでパズルのピースが一つだけ足りないかのように気持ち悪い。
その時、ちょうどドアがノックされた。
「アリシアちゃん、いる?」
レミリアの声だ。珍しく慌てたような様子がにじみ出ている。
「いますよ」
「ああ良かった。アリシアちゃん、王子が来ているの」
「え?」
王子が来ている。一瞬聞き間違いかと思ったが、レミリアがこれだけ焦っているのなら聞き間違いではなさそうだ。
王子。まさかイルヴィスが来たのだろうか。彼は以前、突然リアンノーズ家へ訪れ両親を驚かせたという前科がある。