第一王子に、転生令嬢のハーブティーを II


 本気で怒っている。それはすぐにわかった。

 逃げたくない。薬はきちんと効いているのだ。ここで逃げなければきっと……。

 そう思うのに、ガクガクと足が震えてくる。



「私は……イル様の妃に……」



 声がかすれていて、ディアナは自分が泣いていることに気がついた。

 イルヴィスはそんなディアナの手を引いて、部屋の扉の方へと進む。


 悔しい、悲しい、怖い。

 色々な感情がグルグルうずまいて、いつの間にか抵抗することを忘れていた。



「今のことは……なかったことにしてやる、から……早く自分の部屋へ戻れ、ディアナ」



 部屋から出たとき、先ほどよりいくらか優しい声色で言われた。

 それでまた、どっと涙があふれてくる。もう彼の顔が見られない。



「っ……」



 ディアナは一目散に走り出した。

 何で?何で?私の何がダメなの?



『私が愛しているのはアリシアだけだ』



 嘘でしょう。婚約者として都合の良さそうな女を適当に見繕っただけじゃないの?

 いきなり現れた女に、ずっとイルヴィスのことを想い続けた自分が負けた?

 そんなことがあって良いはずがない。絶対に認めたくない。


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