第一王子に、転生令嬢のハーブティーを II


 やがて彼女は安堵したように息をついた。



「良かった……。熱、下がりましたね」


「熱?」


「覚えていらっしゃいませんか?昨夜、部屋の前で倒れそうになっていたんですよ」



 覚えている。

 だがあまりに情けない気がして、「そうだったか」と適当に流しておいた。


 それから、少しイタズラ心が芽生えて、額に当てられているアリシアの手をそっと取り、その手を額から頬へ移動させた。

 驚いたように手を引っ込めようとするのを許さず、イルヴィスは彼女の手を頬に当てたままそっと微笑んだ。



「貴女の手は少し冷たくて気持ち良いな」



 そう言って、アリシアの困惑した表情が見られるだろうかと目をやる。が──



(……ん?)



 彼女は少し予想と違う表情をしていた。

 アリシアは顔を耳まで真っ赤に染め、視線が合うと慌てたように逸らした。


 イルヴィスは思わず手の力を緩める。アリシアはその瞬間を逃さずさっと手を引っ込めると、目を合わせないまま少し上ずった声で言った。



「わ、わたし殿下がお目覚めになったことを知らせに行ってきます」



 引き止める間もなく、彼女は早足で部屋を出て行ってしまった。


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