第一王子に、転生令嬢のハーブティーを II
周囲に目を配りつつあちこちを歩き回るノアは、傍から見ればかなり不審なようで、こちらを見る城の使用人たちの目は一様に訝しげだ。
そして、とうとう後ろから声をかけられた。
「何をしている?」
もうだいぶ聞き慣れた、凛とした声。
振り返ると、いつどの角度から見ても美しいアリシアの婚約者が、その緑の瞳をノアに向けていた。
「イルヴィス殿下」
ノアは慌てて頭を下げ、それから焦った声で尋ねる。
「あの、アリシアお嬢様がどこにいらっしゃるかご存知ありませんか?」
「いや……いないのか?」
「はい。昨夜からずっと見当たらなくて」
「今朝早くまでは私の部屋にいたが……」
「えっ」
「あっ、いや……昨夜少し体調を崩してな。看病してくれていたらしいんだ。お陰で今朝には回復した」
「ああ、そういうことでしたか……」
ノアは少しほっとするが、同時に「今朝早くまで」という言葉に、今はそうでないことを察する。
その証拠に、イルヴィスの顔にもわずかに焦りのような色が浮かんだ。
「一人でどこかに出かけたという可能性は?」
「なくはないと思いますが……」