第一王子に、転生令嬢のハーブティーを II


 となると、ディアナがこちらを見て笑ったというのは見間違いで、本当は何者かがアリシアとディアナの二人ともを誘拐したのか。

 様々な可能性を一人考えていると、乱暴な足音と共に誰かが近づいてきた。



「おうおう、こっちのお嬢さんもお目覚めじゃねぇか」



 ガラガラした男の声で、少し酒のような匂いもする。

 声の主である、日に焼けた肌に黒い髭と髪を無造作に伸ばした男は、アリシアの顔をのぞきこむと、ヒューと口笛を鳴らした。



「かーっ、良い女じゃねえかよ。俺は王女サマよりこっちのが好みだな」


「誰?わたしを誘拐したのはあなた?」


「はっは、まあそんな怖い顔すんなって」



 男はアリシアの問いには答えず、無遠慮にゴツゴツとした浅黒い手でアリシアの頬に触れる。

 この男に触れられた部分から、ぞわりとした嫌な感じが全身を駆け巡る。



「だがまあ睨む目付きも悪くねぇな」


「触らないで!」


「気の強いお嬢さんよぉ、自分がどんな状況かわかってんのか?」


「わからないから尋ねてるのだけど……っ嫌」



 そのまま睨みつけていると、男は嫌なにやりと笑みを浮かべて、今度はアリシアの太ももを撫でる。

 服の上からではあるが、嫌悪感がものすごい。


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