第一王子に、転生令嬢のハーブティーを II
まだ少し薬の効き目が消えきっていないからか、それともアリシアとディアナが逃げ出そうとしていることに怒っているからか、虚ろな目をしている。
きっと躊躇なく襲いかかってくる。そんな恐怖を感じさせられた。
「っ……」
アリシアは向こうの船までの距離と、カーラまでの距離をざっと見て測る。
そして、意を決して船に飛び移った。
恐らく飛び移ることができない距離ではない。動くのには向いていないヒラヒラのワンピースなのは気がかりだが、運動神経が悪いわけではないし、きっと大丈夫だ。
アリシアが飛び移ろうとしていることに気がついたイルヴィスが、こちらに手を伸ばしている。アリシアも彼に向かって必死に手を伸ばした。
足が移った先の船のへりを踏んだ感触があった。あとは彼の手をつかむことができれば。
──そう思った瞬間を見計らったかのように、また大きく波が立って、船が動いた。
(あっ──)
ずるっと足が滑り、伸ばした手はイルヴィスの手に届く直前で空をつかんだ。
(落ちる……)
全てがスローモーションに見えた。
海に落ちたらきっと助からない。泳げるわけがないし、この重いワンピースが水を吸ったら浮いていることさえできないだろう。
前世と違い、せっかく健康な身体で生まれたのに、結局同じ年齢で終わりを迎えてしまうのか。