第一王子に、転生令嬢のハーブティーを II


 色々と覚悟をして、ギュッと目を瞑った。


 ……だが、溺れる息苦しさは、一向に訪れなかった。

 代わりに、伸ばしていた右腕がもげそうなぐらい痛い。



「重……い……細いわりに、重いですよ……アリシアさん……」



 恐る恐る目を開けると、必死の形相でアリシアを引き上げようとするディアナがいた。

 細くて頼りない手が、懸命にアリシアの腕を引っ張っている。



「でかしたディアナ。代わる」


「は……い……」


「アリシア、つかまれ!次こそは絶対に離さない」



 そんなイルヴィスの声がして、今度はもっと強い力で、一気に引き上げられた。


 そうして、どうにか上がることのできた船の上。床があるって素晴らしい。



(し、死ぬかと思った……)



 ぜえぜえと荒く呼吸する。

 今になって震えが止まらなくなる。涙もじわじわと溢れ出てきた。


 そんなアリシアを、イルヴィスが強く抱きしめた。



「良かった……無事で本当に良かった」



 胸の辺りがまたキュッと熱くなる。

 やはり、彼にこうして抱きしめられるとものすごく安心する。

 こんなに安心しているのに、震えは一向に止まらない。不思議に思いよく見ると、アリシアを抱きしめるイルヴィスの腕が震えていた。


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