第一王子に、転生令嬢のハーブティーを II
何一つ証拠はないし、もし彼女の企みだったとしても、彼女が自分の手で紅茶を淹れたとは考えにくい。
やるのなら、そうするよう指示を出した程度。お茶を淹れた者が勝手にやったのだと片付けられて終わりだ。
アリシアは無意識にディアナを注視していたらしく、その視線に気がついた彼女が笑みを浮かべた。
「どうかしましたか、アリシアさん」
「あの、紅茶が──」
「紅茶?」
不思議そうに聞き返すディアナを見て、アリシアは口をつぐんだ。
その表情は、演技などではなく、心底不思議そうだった。彼女ではない。
「いえ、何でもありません。美味しい紅茶ですね」
「まあ、気に入って頂けたようで嬉しいですわ。お茶係のカーラはいつも美味しいお茶を淹れてくれますのよ」
アリシアは「そうですか」と微笑み、怪しまれないよう少しずつ苦い紅茶を飲んだ。
舌から食道にかけて痺れるような感覚を覚えながらも、どうにか表情を変えずに飲み干した。
──しかし、これは始まりに過ぎなかった。