ふしだらな猫かぶりからの溺愛
まだ床に座り込む私に近づくとその長い脚を折り、腰をかがめると私の腕を掴んで引き上げてくれた。

「……ありがと」

「……やっぱり、仁那だよな」


神奈が確かめるように私の名前を呼ぶ。


「あ!そうだ神奈ー!」

神奈が出てきたスタジオの中からモモタの元気な声とともに扉が開く気配がして、思わず肩がびくっと揺れた私を見た神奈が腕を引いたまま小走りに階段を駆け上がる。


「……あれ?なんだー、もう行っちゃったのかよー」

背後からモモタの声が小さく聞こえた。


受付カウンターの前を通り過ぎるとき、藤枝さんの目がまんまるに見開かれているのがわかったけど、私たち2人の様子に何か感じたのか何も言わず送り出してくれた。


午後のこの時間はちょうど暑さもピークなのか、外に出た瞬間にまとわりつくような熱風と太陽の眩しさに思わず目を瞑る。

外の光に慣れた瞳に映るのは、空色の言葉がぴったりの抜けるような青空が広がっていた。

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