ふしだらな猫かぶりからの溺愛
そんな私たちのやりとりを、受付の藤枝さんがまたしても白目をむきそうなほど驚いていた。


階段を降りると地下の右端にあるスタジオルームの扉の前で止まると、チラッと神奈を振り返る。

神奈たちの使っているスタジオは階段を挟んで左端にあるので、このままお互いに部屋を出なければ鉢合わせることもバレることもない。


ばいばーい、と声に出さずに手を振って自分のスタジオに入る瞬間に、後ろで騒がしく扉の開く音と声が聞こえた。


「るーくん待ってー!帰らないでー!」

「無理もう帰りたい、コーヒーもまだだし」

「神奈すぐ戻ってくるから、な?RUIくん!」


そのやり取りが聞こえると同時に部屋へと身体を滑り込ませて扉を閉めた。

あっ……ぶなかった〜……。

またしてもギリギリのニアミス……。


「悪い、遅くなったな」

「神奈〜!遅いよ〜!RUIがもう我慢の限界になっちゃって帰るって言って聞かないんだよー」

「RUIほら、コーヒー買ってきたからもう少し頑張ろ。まだ作曲の途中だろ?」

「えー」

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