俺様天使の助手になりまして

 それにしては、玄関で待っているのは変だ。香奈とだったら、駅で待ち合わせする筈だから。

 やっぱりおかしい。大事なことを忘れている。

 心が、気持ち悪い。思い出せない。

 けどこれだけは言える。約束の相手は香奈じゃない。

 夏休み中、毎日用事があった筈なんだ。

 ここにいれば、待っている〝何か〟が、来るのかな。

 けれど、待てど暮らせどやって来ない。ただの思い違いか。勘違いか。でも、頭が霞んでいる感じで、胸もモヤモヤしてスッキリしない。

 靴を履いたまま、玄関マットの上に腰を下ろし、茶色のスチールドアを睨みつける。

 いつもこの時間に、何かがあった筈なんだ。それも特別なことが。

 ん、左手……左手がすごく気になる。甲が熱い気がする。

 ここに、何かがあった? 怪我をしたのかな。でも傷痕がない。

「う~~ん」

 呻いても、左手をぷらぷらさせても、頭を叩いてみてもダメだ。思い出せない。

「う、とりあえず、今は諦める。今日はその日じゃないかもしれないし、課題をやろう」

 やる筈だった事をしていれば、思い出すかもしれない。先ずは、苦手な数学からやっちゃわないと、後が困っちゃう。

「あれ? ほとんど、やってある?」
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