俺様天使の助手になりまして

 思い出せなくて悔しい。

 泣けてくるなんて。忘れたくないって思うなんて。こんなの謎過ぎる。

 きっとこれは記憶喪失なんだ。

「決めた! 探しに行く!」

 探さなくちゃ。

 そうだ、ずっと探していたんだよ。

 それが何かは、謎だけれど。

 ウジウジ泣いていられない! 巾着袋にスマホと財布とミニタオルを入れて、外に駆け出した。

 気が急く。迷っちゃダメ。思うまま、体が向く方へ走って行かなくちゃ。

 藤松剣道防具店の前を通り、田んぼ道をいく。

 どこを目指しているのか分からない。けど、「こっちだ」ってことは感覚で分かる。

 途中で見つけた自販機でジュースを買ってごくごくと飲む。

 そういえばついこの間も、こんな風に飲んだような……。その時は、自分で買ったんじゃなくて……。

「あーん、もう!」

 ハッキリしなくてイライラする。

 急がなくちゃ。行かなくちゃ。ますます記憶が遠のいていく。

 思うがままに走ると、三角屋根に十字の飾りがついた建物が見えてきた。

「あ、ここは、教会……?」

 色とりどりのガラスって、ここのステンドグラスかもしれない。じっと眺めていると、教会のドアが開いた。

「やば、誰か出て来る。どうしよう。隠れなきゃ!」
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