俺様天使の助手になりまして

 涼しげな氷の音と、風鈴の音がする。

 こんなふうに過ごすのも、初めてじゃない気がする。

 懐かしさに似た気持ちでカルピスを飲んでいると、春川さんがロッカーみたいな棚の中から何かを出してきた。

「来てくださって、ちょうど良かったです。朱里さんに渡すものがあります。これをどうぞ」

「あ! それは、パパの」

 春川さんが持っているのは、『無心』の刺繍のあるパパの竹刀袋だ。どうしてここにあるんだろう。

「あの、これは……」

「山の上神社の夏祭りが終わるまで、預かって欲しいと言われました。これをどうしようかと思っていたところなんです」

 私が頼んだんだ。でも。これを持って帰ったら、こことの繋がりが消えてしまう。

「ありがとうございます。でも、あの、もう少し預かっていてくれませんか。その、迷惑でないなら、ですけど」

「勿論、良いですよ。全然迷惑じゃありません。では、再びお預かりしましょう」

 春川さんは優しい。私はもうこことは関係ない人みたいなのに。

 ぴぃちゃんが指から下りて、テーブルの上をちょんちょん歩き始めた。きょろきょろして、何か探しているみたい。
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