俺様天使の助手になりまして
 その日の夜のこと。ママと一緒に晩御飯を食べた後、二階にある自室に戻った。

カーテンが開いたままの窓からは月明かりが射しこんでいて、電気をつけなくても結構明るい。

「今日は満月なんだ」

 雲が少ない夜空に星が小さく瞬いている。こんな空を飛んだら、どんな気分かな。

 星は、もっと大きくハッキリ見えるのかな。

 リクトールは、もう教会に帰ったのかな。

 魔族って、夜に活動するイメージがあるけれど、実際どうなのかな。

「会いたいな」

 元気かな。怪我してないかな。疲れてないかな。ちゃんと寝てるかな。

 今、空を飛んでいないかな。ちょっとでも姿を見られたらいいのに。元気だって分かるから。

「リクトールのおバカ」

【うむ成程。記憶は消せても、想いは残るか。積み重ねた時が長ければ尚更強い。人間とは、厄介なものですね】

 ……今、誰が言った? どこから声がした? 

 すぐそばから聞こえたような気がする。

 でも、部屋の中には誰もいないし、窓の外も、ふわふわ飛んでいる蛍が一匹いるだけで、ほかには何もいない。

「って、ちょっと待って。この蛍、すごく大きいし点滅してない」

【失礼いたします】

 そんな声がした後、光る虫が、ふわっふわっと、どんどん大きくなっていった。

 デカイ蝶々? それとも鳥? 

 違う。翼がついた人だ! 

 逆光で顔が見えないけれど、魔法使いみたいな白い服にブロンドぽい髪。これは、もしかして……。
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