俺様天使の助手になりまして

「何もないじゃない? ていうか、朱里。私今忙しいんだけどなぁ」

 上空を見たついでに振り返って、楽しげな声を出している先輩を見ている。すると、精玉がピタッと止まって、ぶるんと大きく震えた。

「やっ! ダメーっ、危ない!」

 考えるより先に体が動いていた。瑠璃菜に体当たりをするように抱きつく。

「お願い! あっちに行って!」

「ひゃあっ!」

 叫び声をあげてよろよろとさがる瑠璃菜を支えながら、精玉を探すと、斜め後ろの方でふらふら飛んでいた。

 良かった、何とか逃れたみたい。

「何? ちょ、朱里? 痛いよ、いきなりどうしたの」

「ゴメン瑠璃菜。何か分からないけど、そこに、変な虫がいるの」

「虫!? もしかして蜂? やだやだ、虫大嫌い!」

 真っ青な顔の瑠璃菜が泣きそうな声を出して抱きついてきた。

 精玉は目標である瑠璃菜を見失ったみたいで、今は斜め上あたりで止まっている。逃げるなら、今のうちだ。

「どこどこ? どこにいるの? もしかしてあの木に巣があったの?」

「見えにくいけど、そこにいるんだ。とにかく逃げるよ」

「う、うん」

「でも見つかるとヤバイから、そっと行かないと。ついてきて」
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