眼球

大概虫というものは物事から逃げ出すような下劣な生き物に違いないのだ。

想えば幼い頃、自慢のスニイカアで踏みつぶそうとキャキャ遊んだものだが、今考えれば決まって逃げ出されていたような、否、そうでもなかったような。おや…可笑しいなあ。

「どうやら僕は記憶ごと彼達に持っていかれてしまったんだなあ。」

と彼は我が足を見つめては唸り、また見つめては唸れる。
すると垂直天井はピタリと時を止め、がりぼりと頭を掻き毟るそのスピートだけが彼を置き去りにぐんぐんと加速していった。

彼が飼い馴らした豚は彼自身の頭蓋骨の中で眠り込み鼾をかきながら、舌の上で転がり回り、口の中はドタバタと反響し、膨れ上がる。


その音は唸り声に変わり、再び彼を置き去る一番の原因になった。