僕ハ無窓ノ居室デ無限ノ虚構ヲ夢想スル
振り返ると、遠くに海が見えた。

この街は坂の街で、僕は高台にある病院に向かうため、急な坂道を上っていた。


梅雨が明けたばかりの空には雲一つなく、強い日ざしが容赦なく照りつけて、髪を切ったばかりの僕のうなじを焦がしていく。


風はなくて、汗をかいた体がやけにベタついた。


右手に抱えた文庫本入りの紙袋が、汗でふやけてしまうんじゃないかとも思った。



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