時雨刻
変化が訪れたのは、それから半年ほどがたったころでしょうか。

その頃にはすっかりバザーのお得意様になっていたあの方とは、もう顔見知りのようになっていました。

ことにあの方は、わたくしたちの出展を気に入ってくださったようで、よく店先にいらっしゃいました。

わたくしたちは、並べてあるお品をお薦めしながら、これ幸いとばかりに、詮索を進めてゆきました。
まるで、かのシャーロック=ホームズにでもなったかのように。

お名前やお歳、二つ先の町のお山の上にお屋敷を構えられていることまで、根掘り葉掘り聞き出したのです。

そして、
やはりわたくしの思ったとおり、かの大革命の際にロシア帝国から亡命していらっしゃった貴族様の末裔なのだそう。

お連れの方が奥方さまだということも、その時に存じ上げました。

するとどうでしょう、胸の中に、ひゅっと冷たい風でも吹き抜けたかのような、一抹の寂しさを感じるようになったのです。

突如として、胸苦しく、切ない気持ちを抱くようになったわたくしは、次第に無口になってゆきました。

一方の友人の方は、その頃にはとっくにあの方への興味を失っているようでした。

彼女は、このバザーをさらに発展させて、新しい事業を立ち上げることに夢中になっておりました。

陰にこもりがちな私とは違い、快活な彼女は、常に正のエネルギィに満ちているのです。

だから、わたしの話に合わせてくれはするけれど、すぐに違う話に飛んでいってしまいます。
それで何故か、ひとりぼっちのわたしの心は、さらに深く、穿ち潜ってゆきました。
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