時雨刻
あのお方のお顔の色が、日に日に悪くなってゆくのです。

すらりとした細身の長身は、今や痩せ細っている、と言ったほうが正しい、立ち居姿もどことなくふらついていて危なっかしいのです。

以前ははつらつとしていた表情にも、どこか陰りがみられます。

お身体でもお悪くされたのでしょうか。

心配でたまらなくなったわたくしは、それでもやはり直接お声掛けなどできるはずもなく、前にも増して、あの方を追いかけるようになりました。

そうしてある日、決定的なものを見てしまったのです。

あれは夏の終わりの黄昏時、大きな夕立の後だったように思います。
いつものように、こっそり後をつけていると、足元がふらついたあの方がふらつき、持っていた傘を落としてしまいます。

慌てて傘を拾うあの方の肩が、傘で覆うことができないほどの強い雨のせいで透けて見えます。

そこにうっすらと、鮮血が滲んできたのです!

はっと見開くわたくしの目に、それは、だんだんと蚯蚓状の細い筋に、よりはっきり傷痕だと判別できる形になりました。

これは、大変なことが起こっているのだと気が付きました。
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