時雨刻
それからわたくしは、毎日のようにあのお方を追いかけました。
それで、あの方の不調が気のせいではなかったことが確信に変わりました。

あの方は、日に日に衰弱してゆきます。

不思議なことにそれは、朝お仕事に向かわれる時が一番顕著で、真っ青なお顔をしておられます。ふつうとは真逆で、夕方はいくぶん回復しておられるのです。

このことは、お家のほうで良からぬことがあると物語っていました。

それでわたくしは決意いたしました。

家人には友人の家に泊まると嘘をつき、暖かい格好をして、夜中にあの方の家に向かいました。

もし何もなければ、それに越したことはないのです。
ただ、確かめるだけでございます。

この界隈、人通りはさほどありません。
ましてや夜中となればなおさら。わたくしは真っ暗な道を灯りもつけず、抜き足差し足で歩きました。

そして、例の塀の亀裂に、そっと顔をつけました。

すると、真っ暗な光景の真ん中に、緋色の灯りが浮かんでいて、縁側の障子紙に、それは恐ろしい影が写りました。

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