時雨刻
四つ足の、大きな獣のような影のそばで、もうひとつ影が踊っています。

それらは繰り返し、同じ動作を繰り返していて、まるで走馬灯のようです。

しかしよく見るとそれは、四つ這いの人間をもう一方が鞭を打ち、折檻をしている姿でした。


ひいっ。
わたくしは思わず、風のような悲鳴をあげました。


まさかそんな、あの仲睦まじい方々が、一体何故?

しかし、そう考えると全て合点がいきます。

あの四つ足の影は、大きさからしてあのお方、そして、髪を振り乱して夫を打っているのは奥方様です。

あの方の衰弱の原因は、激しい折檻に因(よ)るものです。

ああ、わたくしは一体どうしたら良いのでしょう。

と、いつもは閉じられている塀の裏木戸が、今日にかぎって開いているではありませんか。

なりふり構ってはいられません。

わたくしは、後先考えず、とびらを (くぐ)ってゆきました。


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