哀 夏 に 、
溶かす
「ねえ、前みたいに送ってよ」
「…別にいいけど、何?」
「たまにはいいじゃん」
夏の夜は、あんまり好きじゃない。
多分これからも、好きになることは無い。
「変なの、一緒に歩いてる」
「お前が送れって言ったんだろ」
「たまには私のワガママも聞いてよ」
夏の暑さ、好きじゃない。
冬の方が私は好きだけど、冬は起きれないから好きじゃないって、私がいつも起こしてた。
「ここのコンビニの店員さん、絶対わたしたちのこと覚えてるよね 」
「店員はそんな客の顔なんか見てねえよ」
「えー、そうかな、」
ふたりで行ってたコンビニ、一人で行くようになってから、私店員さんの顔覚えたよ。
煙草、私は吸わないのに私がレジに並ぶと、わかったように取ってくれるんだよ。
「夏、終わらないかな」
「冬が来る方がこえーよ」
「冬のほうがいいなあ」
冬、までに。
忘れられるかな。
気だるそうに歩く後ろ姿も、引きずってすぐ壊す靴も、自分の首に回す大きな手のひらも。
…きっと、忘れることは無いんだと思う。
< 1 / 16 >