✽新✽魔王様と暁の姫〜月は夜明けの花を永久に想う〜
 少女のことを何一つ覚えてないのに、初めて会ったような気がしない――不思議な感覚。    

 綺麗さっぱりに、欠けてしまっている。



 俺には何もないのか、大切な記憶(おもいで)も名乗る名も。



「――思い出せないのなら。わたしの好きなお花の名前あげる」



 凛とした口調で、はっきりと告げる少女。瞬きも忘れて、少年は少女を凝視する。



「あなたはユーリ。白くてきれいなお花なの。今度一緒に見に行こうね」



 ユーリ。それが俺の、名前。



 降り続ける雨は冷たいのに、どうしてこんなにもあたたかいのだろう。



「……ありがとう」




 唇から零れた言葉はぎこちない。それでも、少女のあたたかさは、何一つ変わらなかった。



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