お ま じ な い
プールが最後の補講だったから、2人は荷物が置いてある教室へと向かう。


その途中、セツナがはた、と足を止めた。


「何かあった?」


セツナはプールバッグの中を覗き込み、手で底の方を探っている。


「セツナ?」


「……ゴーグル更衣室に忘れた」


あまりにも暑くて、お互い確認せずに出てきてしまったから、気が付かなかったんだろう。


おまけに更衣室は何故かいつも薄暗い。


セツナのゴーグルは灰色で、なおさら忘れたことに気が付きにくかった。


「取りに戻る?」


「うん。ついてきてくれる?」


「大丈夫」


来た道を2人、急ぎ足で戻る。


プールサイドの水はほんの少ししから時間が経っていないのに、ぴちゃぴちゃと温水が足首に跳ねた。


幸い更衣室は鍵を閉められておらず、サクノの前を走っていたセツナが先に中に入る。


遅れてサクノが更衣室のドアから顔を出すと、セツナは既にゴーグルを見つけていた。


「お母さんに怒られるところだった」


「他の人に取り違えられてなくてよかったね」


そう言って出てくるセツナの左に並んでプールサイドを歩き始めた時だった。


左腕を有り得ない力で引っ張られ、サクノの体は激しい水飛沫を上げてプールの中に沈んだ。
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