お ま じ な い
突然のことに慌てたサクノは滅茶苦茶に手足を振り回して、必死で空気を得ようと藻掻いた。


そのうちに手がコースロープに触れ、それを頼りに水面に顔を出す。


「っあ、は、は、」


サクノは体を震わせて喘ぐ。


水を大量に呑んでしまったせいで、気分が悪い。


「び、っく…り…した」


プールの温度はぬるく、塩素の匂いが鼻をついた。


激しく咳き込み、涙目になりながらサクノは濡れた顔を右手で拭う。


そしてあることに気がつき、青ざめた。


誰がサクノの腕を引っ張ったのか。


プールにはサクノとセツナの2人しかいない。


サクノはセツナの左側にいて、サクノの左側はプールしか無かなかったはずだ。


どくりどくりとサクノの心拍数が上がる。


「せ、セツナ」


サクノはセツナを振り返る。


セツナは動かない。


驚いて固まってしまったのかと、サクノはコースロープに縋り付きながらもう一度口を開く。


「セツナ、手を貸して」


「……だ」


「セツナ……?」


サクノはコースロープを掴んだまま、セツナに1歩踏み寄ろうとする。


しかし───


「ぁ、足が、」


何かが、サクノの足を掴んでいる。


それはサクノが逃げることを決して許さない。


ひゅ、とサクノの喉が鳴った。


「セツナ……助けて……ねぇ!セツナ!」
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